9.12月の行事 

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そうやって記された、チケットが二枚。 「良かったじゃん。  憧れの羽村冴香のピアノリサイタルに招待されて」 「うん……良かったんだけど、違うの……。  託実……後ろ、見て」    言われるままに、チケットの裏側に視線を向ける。 * 理佳ちゃん お見舞いに来たけど面会謝絶で会えなかったわ。 前にお稽古の時に話したわよね。 今度、一緒に演奏しましょうって。 モーツァルトの2台のピアノのソナタを。   当日、アメジストホールで待ってます。 元気になって、二人で演奏しましょう。 羽村冴香 * 「だから……」 「良かったな。  羽村冴香と一緒に演奏できるクリスマスイヴなんて。  だったら俺との約束は……  26日にでもするか……クリスマス終わっちまうけど」 そんな言葉を紡ぎながらも、 心の中はぐちゃくぢゃ。 なんでLIVE入れたんだよ。 なんで羽村もクリスマスなんだよ。 そんなどうしようもない苛立ちが俺を包み込む。 「違うの。  チケット……二枚あるから……。  二枚あるから託実、一緒に来てくれない?」 理佳の思いがけない言葉に、 一瞬、思考回路が固まるものの…… 再び、覗き込まれた理佳の顔を捉えながら 俺は流されるように頷いた。 隆雪の誕生日が…… こうなったら25日か26日だな。 そんなことを考えながら過ごす12月は、 いつもと違う景色を見せてくれる季節になった。
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