10.クリスマスの奇跡 

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クリスマスイヴに予定が入ったんだもの。 大丈夫。 その日……私は病室を飛び出して、 アメジストホールで、冴香先生と一緒に演奏するの。 ドレスは……、託実の傍で着る予定だった ダンスパーティーの時のドレスで……。 目標があるのは、心を安定させてくれるからなのか 宗成先生たちの治療の甲斐があったのか、 11月の終わりに差し掛かった頃、 私は一般病棟の自分の病室に15時半頃帰ることが出来た。 だけど体力が低下してる私は、 起き続けることも長く出来なくて、すぐに病室のベッドに眠りに誘われていく。 目が覚めた私の前には託実があの時みたいにいて、 綺麗なドレスが飾られていた。 「理佳……」 託実は心配そうに私を捉える。 そしてその後「バカ……何、無理してんだよ」っと 言いながら、そっぽ向いた。 託実にそんな顔させたの……私だ……。 「……ごめん……」 ようやく出て来た言葉は謝罪。 「何謝ってんだよ。  それより……理佳、晩飯。  とっとと食べろ。  今から準備してやっから」 託実は……あの時みたいに抱きしめてくれなくて、 私から逃げるように、晩御飯の準備をする。 薫子先生たちから貰った、食器の中に 病院食のおかゆを、うつしていく。 ……託実……に  抱きしめてほしいのに……。 「何?  どうかした?」 しーっと見つめていた私に託実が更に言葉を返した。 「抱きしめてくれないの?あの時みたいに」 ふいに零れ出た本音の後、託実が続けた言葉に私は驚いた。 「抱きしめた?  何時?俺が?」 えっ……私を抱きしめてくれたのは、 託実じゃなかったの?
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