10.クリスマスの奇跡 

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だけど……あれは……ちゃんと託実だったよ。 託実が私を抱きしめてくれたから、 私はちゃんと頑張ることが出来たの。 なのに……託実じゃないなら……夢?だったの? 「あれっ?  託実じゃないの?    ベッドに横たわってた私を布団ごと抱きしめて、  『とっとと熱下げろ。いいな、理佳』って……  託実言ったでしょ?  だから頑張らなきゃって思ったのに……」 そう言った瞬間、戸惑ったような託実の体が 布団越しに私を抱きしめた。 託実が抱きしめてくれただけで、 ドキドキ鼓動が早くなってるのがわかる……。 ドキドキ早くなりすぎる鼓動は 何時もは苦しいだけなのに……今は苦しいわけじゃなくて…… ただ託実の温もりを、忘れないように沢山沢山覚えていたくて必死だった。 「手、冷てぇ。  ほらっ、あっためろや」 そうやって私の手を包み込んでくれる託実は凄く暖かい。 「託実……暖かい」 「そうだろ、寒くなったら俺があっためてやる。  だから……ちゃんと、俺のところに戻って来い。  理佳の居場所は、俺の傍だろ。今は」 いつもより何倍も優しく感じた……託実の温もりを強く感じながら、 もう少し元気になって、冴香先生との夢を一緒に過ごそう。 そしてそのメドがたったら……勇気を出して、 託実に一緒に来てほしいって頼もう。 そんな風に思いながらその時間を過ごした。 病室には戻ったものの、 ベッドから動く許可が貰えない時間だけがその後も過ぎた。 ベッドの中で出来るのは、 少しでも長く、座っていられるように訓練すること。 そしてその場で指を動かしながら、 冴香先生と演奏する予定の曲の楽譜を練習すること。 少しでも可能性があるなら、 私は諦めずに前を向きたいって…… 今は心から思えたから。 治療と検査と練習と……そんな毎日が続いたけど、 12月の中旬に差し掛かる頃、 30分だけ、お遊戯室でもう一度ピアノを触ってもいいと 宗成先生は許可を出してくれた。 1日30分間だけ、実際の鍵盤に触れて練習できる 2台のピアノのためのソナタ。 その30分間の練習時間が、託実がお見舞いに来てくれた時間と重なった時、 私が勇気を出す瞬間が現れた。
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