10.クリスマスの奇跡 

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「どうした?  なんか不服か?」 「ううん、嬉しいよ……。  嬉しいけど、私……24日の夜はダメなの。  もう予定入ってるの」 悲しくなる心必死に耐えながら、 ようやく見せたのは、引き出しから取り出したチケットの入った封筒。 託実はチケットを手にして、 「良かったじゃん。  憧れの羽村冴香のピアノリサイタルに招待されて」 っと、少し面白くなさそうに告げた。 機嫌悪くなった託実を感じる。 ちゃんと言わなきゃ。 一緒に過ごしてほしいって……。 「うん……良かったんだけど、違うの……。  託実……後ろ、見て」  その後の言葉は自分でも何を話したか覚えてない。 「違うの。  チケット……二枚あるから……。  二枚あるから託実、一緒に来てくれない?」 勢いに背中を押されるように、口早に言いきった言葉に 託実は暫くの沈黙の後、頷いてくれた。 その後も、順調に30分だけのピアノの練習を続けることが出来て 迎えたクリスマスイヴ。 午前中は安静時間。 午後を過ぎてから、宗成先生と伊集院先生が 病室に顔を出してくれた。 ベッドの中で、病人には似合わない 薄い水色のドレスを身に着けて、 その上から、ロングコートを羽織ってる。
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