10.クリスマスの奇跡 

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「準備できたみたいだね。  理佳ちゃん、移動中は必ずマスクをつけること。   もう風邪が流行ってるからね。  理佳ちゃんの思うだけの十分な練習を先生はさせてあげられなかったかもしれない。  だけど……今日は、理佳ちゃんが楽しめるように先生は祈ってる。  リサイタル会場には、伊集院先生も付き添ってくれるし  向こうにも、羽村先生が手配してくれたお医者様が来てくれてるらしい。    その先生も心臓疾患を専門に取り扱ってる先生だから、安心するといいよ。  何もないことを祈ってるけど、先生もすぐに対処できるように待機しておく。  だから……楽しんでらっしゃい」 そう言って宗成先生たちは、私を病室から送りだしてくれた。 車椅子にドレスのまま座った私は、コートを着用してマスクをして、 ひざ掛けまでして……手にも手袋。 そんな私の車椅子を、珍しくスーツ姿の託実が ゆっくりと押してくれる。 ガラスドアが開くと、冬の寒さを頬が感じる。 「寒いからとっとと行くぞ」 託実はそう言って、横付けされた車の中へと私の車椅子を押し込んで固定した。 私の車椅子の向かい側になる場所に、 伊集院先生と、託実が乗り込むと車は、アメジストホールに向かって動き出した。 私がホールに到着した時には、 すでに冴香先生のリハーサルが行われていた。 ショパンにモーツァルトにリスト。 パガニーニ。
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