10.クリスマスの奇跡 

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クラシックの有名な曲が、次々と奏でられる。 そんなリハーサル中のホールの中に、招き入れられた私は その音色の優しさに包まれた。 託実は……私の隣、退屈そうに少し欠伸をしては、 気まずそうに顔を背ける。 「理佳ちゃん、いらっしゃい。  体調はどう?  演奏するのは約6分間。  無理せずに体力温存ね。  体調が優れなくなったら、すぐに紫音君……あっ、伊集院先生だったかしら?とか  先生のお友達の、恭也君に声をかけてね」 冴香先生がそう言うと、冴香先生の後ろに居た男の人が 静かに会釈した。 私はその後、冴香先生と一緒に楽屋へと移動して その後は楽屋のモニターで体調を考慮しながら冴香先生の演奏を聴いてた。 そして第二部に差し掛かったところで舞台袖へと移動する。 悴む【かじかむ】手が思い通りに動かない。 何度も両手を擦りあわせながら、その時間を待っていると 託実がその暖かい手でゆっくりと私を包み込んでくれた。 「理佳、緊張すんなって。  俺はここで見守ってるから。  冴香先生と思いっきりやって来い」 そうやって元気をくれる託実。 そしてついに……ステージの上で演奏していた冴香先生が、 ゆっくりとピアノの椅子から立ち上がり、私の方を向いた。 「ご来場の皆さま、一夜限り、一曲限りではございますが  ここで、スペシャルゲストをお招きしたいと思います。  彼女との出会いは、メイク・ア・ウイッシュと言う団体を通してでした。  難病で生きる希望をなくした幼かった少女は、  今も懸命に自らの病気と向き合いながら、今を生きています。  そんな彼女、理佳ちゃんこと、満永理佳ちゃんとの出逢いは  私のピアニスト生命においても、かけがえのない存在となりました。  どうぞ、皆さま、拍手でお迎えください。  理佳ちゃん」
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