唐風の楼閣、月夜の宴。

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笑みを浮かべつつの、互いの振り下ろす腕が、切りつける太刀が、しかし本気であることは明白。  立合いや手合わせなどではなく、これは紛うことなく。 本気の、殺し合い。 「頼光さま!」 「酒呑!!」  だが気づいたところで、その場の全員に、止める術などない。  となれば、このままどちらかが息絶えるまで黙っていているしかないということか。  舌打ちした公時が、その身丈に似合わないほど長い柄を持つ鉞を、握りなおした、そのとき。  巨大な鳥の羽音と、闇になれた瞳には眩いばかりの燐光。  漆黒の巨大な鴉が、酒呑童子の肩に乗る。  燐光を放つ白銀の蝶が、頼光の太刀を止めた。 「・・・・・・慈鳥?」 「・・・晴明か」  酒呑童子と、頼光が、それぞれに遣いをよこしたらしい、知った名を呟いた。  先ほどまでの殺気が、嘘のようにきれいに失せた様子の二人に、その場の全員が安堵の息を漏らす。  そんな周囲の心の内など知ろうともせず。  別の相手から同じ伝言を受け取った主たちが、一瞬緩んだ表情を険しくさせる。 「茨木!都へ降りるぞ」 「皆、戻るぞ」   『一条付近で、土蜘蛛による襲来。』    土蜘蛛は厄介だ。  人はもとより、妖怪からも疎まれる存在である。  強い妖気は帯びなくとも、数が多く、疫病をもたらす。 集団で森といわず都といわず襲い、何もかも喰らい尽くす。    応、と力強い返答を耳に聞きながら、並ぶ主達が。 「邪魔をするなよ、人間風情が」 「こちらの台詞だ。せいぜいその人間のために働け」  言い合いながら、駆け出す先。  高く上る月が、明るい。   (終)
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