唐風の楼閣、月夜の宴。

4/5
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
歌うように、囁いた。  綱が、その場の全員がたどり着いた結論を、誰に告げるともなく、呟いた。 「・・・・・・継承した大蛇の力を、妖狐の封じに利用した、というのか・・・?」  一国を滅ぼす力を持つ妖怪の力を、封じるほどの。 陰陽寮のものたちの話によると、「八つ」は確かな数を表してはおらず、数え切れぬほどたくさんを意味するということと聞いたが、つまりそれほどのということに変わりはない。 「たくさん」を、「たくさん」で封じる。  目の前の、少年の姿をした『それ』に。  言葉を失った綱と、その左右でわずかに腰を浮かせて、恐怖とも驚愕とも取れる表情を作っている末武と、貞光を、金の瞳が緩慢な動作で見回すようだった。  白々しく、おや、と小首を傾げてみせて、優雅に微笑んだ。 「三人とも、杯が空になったか。さて、誰に注がせよう?」  楽しそうに、囁く。  ヒュ、  と、その首元を。  剣呑な光を放って、公時の鉞(まさかり)が切り裂く、一瞬手前。  キィン、と、闇を貫く、鋭い音が響いて、打ち落とされる。  酒呑童子と公時の間に割入った茨木の、瞬時にして長く伸びた、右手の爪。  それが、公時の振るう巨大な鉞を防いでいた。  睨み合った二人は、動かぬまま。  ぱちりと、囲んでいた炎が、わずかな音を立てた。 「茨木」 「公(コウ)」  それぞれの主が、声を発したのはほぼ同時。  それを合図に二人ともが、身を引かせる。  入れ違いに、頼光と、酒呑童子が、見合う。  く、と、どちらともなく、堪えきれずに笑みを漏らした。 「互いに主想いな部下を持ったな、鬼」 「まったくだ」  酒呑童子が、肩に掛けていた繍美しい羽織を脱ぎ落とす。  頼光が、腰の得物に手を掛ける。  え、と。  見守る皆が、何が起こるのかを測りかねているうちに。  音もなく、二人ともの足が、地を蹴った。  振り下ろす、頼光の太刀が、危うく童子の肩を掠める。  鋭い、童子の爪が、一瞬前にはそこにあった、頼光の残像を切り裂く。  気が付けば、二人の主は殺し合いを始めていた。  それは、楽しそうに。   (続)
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!