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歌うように、囁いた。
綱が、その場の全員がたどり着いた結論を、誰に告げるともなく、呟いた。
「・・・・・・継承した大蛇の力を、妖狐の封じに利用した、というのか・・・?」
一国を滅ぼす力を持つ妖怪の力を、封じるほどの。
陰陽寮のものたちの話によると、「八つ」は確かな数を表してはおらず、数え切れぬほどたくさんを意味するということと聞いたが、つまりそれほどのということに変わりはない。
「たくさん」を、「たくさん」で封じる。
目の前の、少年の姿をした『それ』に。
言葉を失った綱と、その左右でわずかに腰を浮かせて、恐怖とも驚愕とも取れる表情を作っている末武と、貞光を、金の瞳が緩慢な動作で見回すようだった。
白々しく、おや、と小首を傾げてみせて、優雅に微笑んだ。
「三人とも、杯が空になったか。さて、誰に注がせよう?」
楽しそうに、囁く。
ヒュ、
と、その首元を。
剣呑な光を放って、公時の鉞(まさかり)が切り裂く、一瞬手前。
キィン、と、闇を貫く、鋭い音が響いて、打ち落とされる。
酒呑童子と公時の間に割入った茨木の、瞬時にして長く伸びた、右手の爪。
それが、公時の振るう巨大な鉞を防いでいた。
睨み合った二人は、動かぬまま。
ぱちりと、囲んでいた炎が、わずかな音を立てた。
「茨木」
「公(コウ)」
それぞれの主が、声を発したのはほぼ同時。
それを合図に二人ともが、身を引かせる。
入れ違いに、頼光と、酒呑童子が、見合う。
く、と、どちらともなく、堪えきれずに笑みを漏らした。
「互いに主想いな部下を持ったな、鬼」
「まったくだ」
酒呑童子が、肩に掛けていた繍美しい羽織を脱ぎ落とす。
頼光が、腰の得物に手を掛ける。
え、と。
見守る皆が、何が起こるのかを測りかねているうちに。
音もなく、二人ともの足が、地を蹴った。
振り下ろす、頼光の太刀が、危うく童子の肩を掠める。
鋭い、童子の爪が、一瞬前にはそこにあった、頼光の残像を切り裂く。
気が付けば、二人の主は殺し合いを始めていた。
それは、楽しそうに。
(続)
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