第1章

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…なんでここにいるんだろう俺。 そう考えながら目線を周りへと動かす。 周りは人で溢れ帰り、会話の波が洪水となって俺の耳にぶち当たる。 「誰かいるの?」 正面から鈴のような声がした。 喧騒の中でもはっきりと聞こえたような気がして、俺は思わず声のした方に顔を向ける。 正面には同じテーブルに座っている制服姿の少女がいた。 少女はニッコリと微笑んで俺を見ている。 俺は感情が表に出ないよう答えた。 「いや、別に…。遅いな、と」 そうだね、と少女はまた笑う。 照れ臭くなった俺はまた顔をそむける。 この少女が俺の一目惚れの相手である、神崎美月である。 美月は体を左右にゆらゆらとさせながら鼻歌を歌っている。 横目で見ても笑っているのがわかり、心臓が掴まれるような苦しさを覚える。 この感情を表すと、「恋」と… 「おーう、おそくなったー」 少し離れた所から聞きなれた声がした。 声の主はあっという間にテーブルに近づいて、美月の隣を陣取った。 コイツの名前は鴫原晶。 小学校からの幼馴染みであり、親友であり、そして…腹の立つことに… 美月の彼氏である。 つまりだ。 俺は親友の彼女に恋をしてしまったのだ。 「おせーよ」 俺は明らかに不機嫌な声で晶を睨んだ。 「いやー、案外混んでてさー」 ニヘラと笑う晶は両手に持つドリンクの片方を俺の前においた。 俺はドリンクの礼を言って、ストローに口をつけた。 晶の手にあるもう片方のドリンクは美月に渡された。 晶め、いつからそんな優しい目をするようになった。 ストローから供給される炭酸ジュースをある程度飲んでから、言った。 「んでだ。何で俺がお前らのデートに付き合わなきゃいけない訳?」 …そう。俺は学校帰りに運悪くこのバカップルに捕まってしまい、何故かショッピングモールデートに連行されてしまったのだ。 二人は顔を見合わせたあと、首を傾げた。 「問題ある?」 「いやいや問題成分百%だわ。完全にアウェイだし。俺あぶれてるし。ってかデートなら二人で行けよ」 「いやだって…」
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