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校内の見回り。そんな酔狂なことをする生徒は、ましてや頼まれてもいないのに率先してやるような生徒は、どんなに探しても彼以外にはいないだろう。だから見つけるのは容易かった。またしてもすんなりと、いとも簡単に。
彼女は、事がスムーズに進んでいるのは、自分の積極性が発揮されているからだと思った。その思いに間違いはない。積極的な故に誰かを好きになろうとし、積極的な故に園村誠を見つけたのだから。だが、この積極的は勘違いと言い換えた方がしっくりくる。しっくりくるというより正しいだろう。好きな人じゃなくて、好きになろうとしている人。優しい人ではなくて、優しそうに見える人。
雨宮洋子は生まれて初めて異性に手紙を書いた。それだけ聞けば何とも微笑ましいイメージが浮かび上がってくる。手紙と言ってもその内容は昼休みに屋上に続く階段の踊り場に来てくださいというものだ。ただの呼び出しだと言えばそれまでだけれど、そんな文面を送る時点で、八割方想いを告げているようなものである。
彼女の心は温かくなった。純粋な気持ちで満たされていると勘違いしている彼女は、恋に恋をしていた。下心に想いを寄せていた。自分の希望に、願望に、無理やり園村誠を当てはめていた。そのことに彼女は気付かない。
ただただ清らかな心で、意中の園村誠に手紙を書き、彼の机の中にその手紙を忍ばせた。
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