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園村誠は机の中にあった手紙を読み、まず最初に、昼休みまでに読むことが出来て良かったと思った。教科書はもちろん、ノート、文房具も必ず家に持ち帰らなければいけないことになっているので、机の中に物を置いておくという習慣がない。ということは自然と、机の中に目を向けることが少なくなる。この習慣は園村だけではなく二年四組の生徒のほとんどがそうだった。次に思ったのが、手紙には日付がないので、もしかしたら何日も机の中に放置していたかもしれない、というものだった。その可能性は十分にあり得る。でもそれは昼休みに行ってみれば分かることだ。ここで放置していたかどうかを不安がったりはしない。それよりも、どうして呼び出しを受けるのだろうかと、そのことに不安を寄せる。園村は常に前を行く。後ろ向きに前を行く。   懸命に記憶を呼び起こす。ここ数日の自分の言動を振り返る。上級生に因縁をつけられるようなことをしてしまったのだろうか。無意識の内に誰かに迷惑をかけてしまったのだろうか。 誰かに迷惑。園村は、こうして毎日学校に登校してきていることで、常に何らかの形で誰かを不機嫌にさせてしまっているのだろうな、と思う。それも頻繁に。生きていれば自然と迷惑をかけるものだとは言われるが、園村からすれば何開き直ってんだよ、と憤りを覚える。せめて最小限に留めるくらいの努力はしろよ、と。   振り返りを終えて、自覚している中では迷惑をかけていないことを確認する。そして、無意識に被害を与えていたのなら仕方がないなと観念する。全くの無駄な諦めなのだが、それをしないと本人は気が済まない。問題でない事柄を問題にしてしまうのは、園村が自覚している無数にある短所の内の一つである。   午前の授業が終わる。二年四組の生徒達は思い思いに机を向かい合わせる。給食当番以外の生徒はお盆を持って列を成す。列はゆっくりと進み、お盆の上に献立が載せられていく。席に着いた生徒は一人で、あるいは友人が来るのを待って、各々のペースでそれぞれ食事を始める。 この食事風景は二年四組でしか見ることが出来ない。他の教室では生徒全員の盛りつけが終了し、着席してから担任や日直当番のいただきます、の号令と共に一斉に食べ始める。他クラスの教師から素晴らしい生徒と評価されているクラスにしては、あまりに統制のない食事風景である。
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