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「あなたのことが病的に大好きです」  大きな目。黒目がちの瞳。腰にまで届く漆黒の髪。その光沢はどこか神秘的なものがあり、思わず見蕩れてしまうような艶やかさがある。彼女はうっとりと微笑む。夢見る少女のように。淡い光に魅せられたように。 「あの、えっと。名前、そうだ名前。まだ、言ってませんでした」  頬を染める。日に焼けることを知らない肌は透き通るような白さで、小さな顔が黒髪によってより一層際立っている。唇は、一点の紅を差したように鮮やかに映えている。 「本城、本城ゆいかです」  小さな声が鈴の音のように響く。どこか儚く、心許なげにも聞こえるその声色はわずかに震えていた。それでも揺るぎのない芯の通った姿勢が窺える。一世一代の愛の告白。想いを寄せたその人に、彼女は再度清らかな音色を鳴らす。 「あなたのことが病的に大好きです」  先ほどよりも上擦った声。それでも澄んだ音色を思わせる。ゆいかは相手の顔を窺うように見る。声に倣うかのようにその身体も微かに震えていた。初恋の人。大好きな人。一目見た瞬間に、奪われた心。月並みに言えば一目惚れ。ゆいかの想いは一度たりとも揺れ動くことがなかった。胸の中に秘め、育み、大きくしていった。募っていくばかりの心には嬉しいような苦しいような悲鳴とも歓喜ともつかない叫びがひしめいていた。  想いを寄せる相手が他クラスの人だったというのは、ゆいかにとって不幸だったのか幸いだったのかは分からない。常に見ていられるのと休み時間に廊下ですれ違う、あるいは彼がいる教室の前を横切る時だけゆっくりと歩いて中の様子を覗いてみるのとでは、想いの募らせ方が違っていたのだろうか。  それとも偏に不幸だったと言い切ってしまった方が良いのだろうか。一目惚れの相手が、初恋の人が、大好きな人が彼であったことを。 それとも不幸なのは、彼女に、本城ゆいかに見染められてしまった彼、園村誠の方だろうか。どちらかは分からない。それでも推測するならば、不幸ではないだろうが、決して幸福でもないだろう。 「……」  ゆいかに想いを告げられた彼、園村誠は何も言わない。言わない代わりに思った。いつもの園村だったら即答でお断りしていたのに、実際に今日の昼休みは即座に断ったのに、無言のまま思った。  今日の運勢は八位だったな。
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