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園村誠は、情報番組の中での星座占いを見てから家を出る。これは何も占いが好きだからというわけではなく、占いが終わった頃が家を出るのに最適な時間だというだけである。学校までマイペースに歩いて遅刻をしないで済む時間。始業五分前に教室の自分の席に座れる時間。それを逆算した時の登校するべき時刻が、占いのコーナーが終わった頃なのである。   占いに凝っているわけではないが、嫌いなわけではない。だから自然と今日の自分の順位を確認する。八位だった。十二位中八位。八位のあなたは、頼まれごとを断ることが出来ないでしょう。ラッキーアイテムは紺色のスカート。占いのアドバイスに園村は苦笑した。断る断らないは自分の意思じゃないか。ラッキーアイテムを身につけてしまったら、ラッキーどころか痛い人になってしまう。そう心の中で思った。そう思い、何度も何度もそう思い、自分にそう言い聞かせながら家を出た。 占いなぞ信じていない。でも気になる。順位が低いと頭から離れない。本当に断れなかったらどうしよう。スカートではなくとも紺色のハンカチくらいは持つべきだったんじゃないか。不安と後悔を踏みしめながら学校へと向かう。   占いは信じないけれど、良い運勢だったら信じる。そんな気持ちを園村は抱かない。抱きたくても抱けない。悪い方、悪い方、彼は常に最悪を抱きしめる。後ろ向きな考えはそれだけで災厄を齎すこともあるだろう、と園村は思う。よく思う。それでも抱かずにはいられない。前を向くのは歩いている時だけ。心は常に後ろを進む。   学校に着くと、占いのことは頭の片隅へとおいやられる。おいやられても、忘れることはない。実際に、放課後には思い出している。 教室に足を踏み入れると、別のマイナスへと指針を向ける。 「おはよう。遠矢」 園村は教室に入るとまず、遠矢綾女に挨拶をする。この挨拶は園村にとって、毎朝祈りを捧げたり、仏壇に手を合わせるような感覚に近い。一つの習慣になっている。もちろん親しい仲だからというのもあるが、それを園村が意識することはない。 「おう。園村」 綾女と初めて会った時、彼女はまず自分の口調は男兄弟に囲まれているからだと言った。それを聞いて園村は、そうなんだ、と言いながらも、どうしてわざわざそんなことを言うのだろう、と思った。
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