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今の時代、口調に男も女もないだろう。それに綾女はどう見たって女である。スポーツ少女らしく髪は短いが、性別を間違えることはない。身体的特徴から見ても、それ以前に制服を見れば一目瞭然だ。
「遠矢は紺色のスカートだね」
「制服なんだから当たり前だろ。何だよ寝惚けてるのか」
「ラッキーアイテムって身につけなくても近くにあればいいのかな」
そうだとしたら、園村の席の隣は綾女なので安心だ。とりあえず片隅にある占いのマイナスが疼くことはないだろう。園村はなんとなく一息ついた。
席に着く園村を見て、綾女は言った。
「昨日の見回りはどうだった」
「一昨日と同じだった」
「なんもないってことか」
「そうだね。何も無かった」
「無かった、じゃねぇよ。お前は考えすぎだ」
綾女が呆れるように言った。園村は、呆れられるのは仕方がないことだと思っている。自身も見回りながらアホらしい、と思うことが幾度となくあるからだ。
「校内見回って楽しいのか」
「全然楽しくない」
「それなら帰宅部らしく帰ればいい。それか、陸上部に入って私と一緒に汗を流そうじゃないか」
「心配なんだよ」
自分で言いながらも、それはないよな、と思う。我ながら思う。他の何かを心配出来るほど心を配れる余裕はない。でも、上手く言い表すことが出来ないので、心配なんだ、と繰り返し言った。
「何が」
「何もかもが」
園村のマイナス思考は後を絶たない。次から次へとやってくる。波が打ち寄せるように彼の心はざわつく。水面に石が投げられ続ける。波紋が消えることはない。
「それに僕はクラス委員だから」
「それは私もなんだけど」
クラス委員。各組で男女一人ずつに振り分けられるまとめ役。担任の絶対な指名により、二人は抜擢された。
「考えすぎなんだよ園村は。もっと気楽にやればいいじゃないか」
「でも、このクラスにいじめがあったらどうなる?」
「どうなるって。テストの満点が限りなくゼロに近い数字になるだけだろ」
綾女はおどけるように言う。しかしその内容は現実的すぎた。園村は暗澹たる気持ちになる。暗闇に支配され、息苦しいとさえ思う。そんな園村の心持ちを綾女は気にも留めない。留められない。彼の表情にも口調にもその心境が表れないからだ。
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