1

9/21
前へ
/180ページ
次へ
雨宮洋子を知らない生徒はこの学校にはいない。どうしてその名を全校生徒に轟かせているかと言えば、彼女の容姿故である。すれ違えば振り返らずにはいられない。異性はもちろん、同性ですら甘いため息を漏らす。切れ長の目に鼻筋の通った整った顔立ち。それでいてそのことを鼻にかけることはない。友人は多く活発で快活で、見ていて気持ちがいい生徒だ。  顔が良くて性格も良い。スラリと伸びた長い脚とそれに見合った身体のバランスは制服を着ていなければ中学生だとは思われないだろう。制服を着ていたとしても、女子高生と間違われる。顔が良くて、性格が良くて、スタイルが良い。三拍子が揃っている。そのため自然の流れとして、当然の結果として、男子生徒から絶大な人気を誇っている。彼女に想いを告げる人は後を絶たない。雨宮洋子にとって告白というものは、感覚としては挨拶に近かった。おはよう。こんにちは。好きです。同列に並べられてしまうほどに、彼女は男子生徒の心の内を聞かされる。そのことに彼女はうんざりしていた。最初の内こそ悪い気はしなかったが、むしろ素直に嬉しかったが、告白に慣れていくにつれて、いつしか罪悪感が芽生えてきた。 医者が人の死をすんなりと受け入れるような単調さ。もちろん、人の死と告白を同列に並べるなんて、それこそやってはいけないことだけれど、淡白になっていることには変わらない。他から見れば贅沢な悩みなのかもしれないが、彼女にとっては切実な問題だった。そうして誰に相談するでもなく、罪悪感の芽を着実に育てていった彼女だが、しかしその芽は突如として乱暴に摘み取られた。  私自身を見ている人がいない。
/180ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加