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手の感触がおかしい。
そう思って、妹殿から目を離して顔を上げた。
なん……だと!?
私の視界に広がる肉の壁。
そして、強面な顔。
「肉壁じゃねーかっ!」
「るせー、アサミ。肉壁言うな、相撲部の誇りだ誇り」
同じクラスの相撲部のやつがデカくて壁だと思ってたのね。
「アサミ」
肉壁だったために壁ドンならずで不服な私の肩に後方から手を置いてきたのは犬山。
振り返れば呆れたように私を半目で見ていた。
「飢えた野獣か、お前は」
「いいえ、恋です」
はっきりとそう返せば、犬山は私の襟首をまたしても掴んだ。
「なっ、離せっ!」
うっかりと妹殿の手を離した私は、両手で暴れてみるも無意味なように引きずられる。いや、生徒会室へと連行されている。
妹殿と離れる距離。
どんどんと、どんどんと遠くなっていく。
「あのさー、アサミ」
「なんだね、犬山」
「俺の妹、どっちもイケるやつだから、オススメ出来ねぇよ」
「それはどういう意味だ?」
はて? と犬山の言葉に首を傾げれば、犬山はどこか不満げに声を出す。
「お前が、襲われるって意味」
「……あらやだ。ウェルカムなんだけど」
だてに女子校育ちじゃないんだ。
中学までには、百合百合の中で生活してた私に、それは脅威でもなんでもない。
「アサミが十番目の彼女とか、笑えねぇわ」
「十番目……?」
「クソビッチなんだよ、妹」
ビッチ……すぎるだろお!?
天使の微笑みは、元より私を狙ってのことだったのか!?
なんだなんだ! 犬山の妹殿は、どんだけ経験豊かなんだよ!?
「なめるなよ、犬山。私は今まで彼女しか居なかったのだ。ビッチもいける!」
ビッチも許容範囲だと口にすれば、あからさまに吐かれた溜め息。
何が不服だ!
「私は、女が足りないんだ! 欠乏してんだよっ!」
とてつもなく、女に飢えた私(女)が吠える。
虚しいくらいに廊下に響いて、遠くで天使が厭(イヤ)らしく笑ったのさえ気づかずに、生徒会室へ無理矢理に入らされた。
扉がパタリと閉まる。
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