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「んー」
久しぶりによく寝た、という感覚だ。体が凄く軽い。
背伸びをしながら目を開いたはずなのに、真っ白な霧でぼやけていて何も見えない。寝すぎて目がおかしくなってしまったのだろうか、と瞳を覆う何かを取るべく乱暴に擦ってみるが、視界は変わることはない。
「諒」
背後からする、聞き慣れた声。間違いない、この声は……
「朔夜さん!」
振り返ると其処には、純白のベールに包まれ、天使のような、否、女神と表現する方がしっくりくる微笑みを浮かべた朔夜さんがいた。
確かふたりで桜を見に行って、家に帰る途中だったはずだ。目覚める前の記憶が曖昧で、思い出せない。
そうだ、朔夜さんは気持ち良さそうに眠っていたんだ。漆黒の宇宙を彷徨い、自らの行末に絶望して『自分』を捨て去ろうとした刹那、目前に広がった母なる惑星の優しく温かい碧のごとき寝顔が浮かぶ。
「すいません、起こしてしまったんですね。ほら、いらっしゃい」
胡坐をかいて、両手を広げる。そうすると、常ならば元気の良い返事と共に胸の中に飛び込んでくるのに、目の前の朔夜さんは穏やかな表情のまま首を左右に軽く振るだけだ。
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