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「はい、誠実な彼に惹かれて、お付き合いさせてもらってます」
画面の美空は黙っていた。ボクが復唱しなかったからだ。
「緊張してドモルから、しゃべれないの翼?」
困惑する美空。
ボクは意を決して、美空の声で言った。
『わたしは女優じゃなく、歌手になりたいんです』
美空の言葉を聞いて、ざわめく会見場。
「ちょっと……翼!?」
ボクの声で、美空が驚いている。
『聴いてくれた人を幸せにする、大切な人が宝物と思ってくれる歌を、わたしは歌いたいんです。お願いです、歌わせてください!』
美空が泣きそうな顔をしている。
『納得してもらうために、わたしはここで歌います』
ボクは願いを込めて、美空の声で言った。
「人前で歌ったの翼だけなの……怖いよ」
怯える美空に、ボクは想った。
(大丈夫、きっと翔べるよ)
覚悟を決めたように、美空は立ち上がった。
「ありがとう、翼」
それが美空が想った、最後の言葉だった。
孤独の周波数は、そこで切れたからだ。
『Ah~~♪』
透明な歌声が流れ、日本中を席巻した。
天使は再び、大空へ羽ばたいた。
それを見届けたボクは、家を出た。
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