花の香り

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  「あら、頬を染めて。里津は本当に純粋ね」 「からかわないで……」  早苗は、楽しそうだ。  さっきまでのことなんか、無かったように笑っている。 「何を怒ってるの? 不機嫌さを惜しみ無く眉間に示して」 「…………」  私は、不機嫌なのではない。  そんなものではない。  キスをした後輩に、早苗は言った。その言葉が私の頭から離れなくて……。 『私は、貴女が触れて良いものではないわ。この指も、肩も、足先も。そして、貴女が今汚した唇も。金輪際、近づかないでもらえるかしら』  厳しい口調で、冷たく吐かれたその言葉は、どことなく自分に言われているような気がしたから……胸が痛いんだ。  眉間に皺を寄せるほどに、胸が痛む。 「怒ってない。というか、近いってば」  早苗の肩へ手を置いて押し退けようとしたけど、私の手は早苗に触れる前に止まる。  触れて良いものでは、ない。  その言葉が、頭の中で再生されたからだった。  不自然に浮いた手は、再び自分の胸元に戻す。 「怒ってないのね。それなら良いわ。さ、生徒会室に行きましょう?」  淡々と言いながら、早苗は私の横へ伸ばしていた手を退けた。  もう、逃げれる。  だというのに、私の足は動きそうもない。  誰ならば、早苗に触れることが許されるのであろうか。  女しかいないこの学校で、早苗は正に女の子から告白されて。  好きだと、私が言ったとしても……先程の女子のように振られて。触れようものなら、冷たく拒まれるのだろうか。  生徒会長の早苗。副会長の私。  生徒会で仲良くなってからは、ずっと憧れ、隣に並び、共に過ごしてきた。  そこに、恋心というものを抱いた私は……先程の女子のよりも手痛く振られるのかもしれない。  ずっと、浅ましい気持ちで早苗を見てきたのかと……思われるかもしれない。  
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