花の香り

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  「ねぇ、里津(リツ)。私が怖いかしら?」  厭(イヤ)らしく笑った目の前の綺麗な女から、私は視線を逸らした。  にじりよる一歩が踏み出されるたびに、私は後退する。 「怖くはないけど、言い方というものがあるんじゃない?」  下方へ向けた視線。紡いだ言葉は、どこか弱々しい。  校舎裏。生徒会長である目の前の人を見つけたのは、たまたまというわけではない。  いつまでも、生徒会室に現れない会長を探していたのだ。 「早苗(サナエ)。近いって……」  生徒会長である早苗は、数センチの距離で私の顔を覗きこむ。  元々、芸能人のような容姿なだけあって……間近で直視できない。なんだか、疎ましく思ってしまうから。 「きっと、さっきの子が見たら勘違いしちゃうわね。私たちの関係を」  あまりの顔の近さに更に一歩下がった。  すると、トンと背中に壁があたる。 「…………」  無言の私には、もう下がれる場所がない。  早苗は楽しそうにクスクスと笑っているけれど、私は痛む胸を押さえて冷静さを欠かさぬように努めた。  ただでさえ、早苗の顔は綺麗だ。  その上、香るのは清潔さを感じさせる花の香り。  醸し出る雰囲気は自信に満ちていて、輝いているように見える。  そんな早苗を間近にして、早くなる心音がとてもつもなく不快だ。  私より背の高い早苗は、両腕を持ち上げて壁に手をついた。 「里津、どこから見てた?」 「どこからって……」  私を逃がさぬように、伸ばされた腕は私の左右を塞いでいて。後ろには壁。前には、ニヤリと笑う早苗。  諦めて、私は息を吐き出した。 「告白されてるところから……」  偶然だった。早苗を探していたけれど……まさか、後輩に告白されるのを見るなんて。 「そう。ということは、一部始終見てたかな? 私が強引にキスされる瞬間も、ね」  カッと私の顔が熱を帯びる。  後輩から告白された早苗は、丁寧に断っていた。  けれど、どういう訳か……その後輩は早苗の制服を躊躇なく掴んでキスをしたのだ。  ほんの、三秒ほどのことだったと思う。  
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