第15楽章 別れの曲

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「なあ、ここで飲んでてもいい?」 「駄目って言いたいところだけど……一杯くらいならいいわよ。ご馳走してあげる」 「サンキュ」  俺はカウンターに座りながら、優馬が華麗な手さばきでカクテルを作る様子を眺めていた。  明日になれば、いつものように弾ける保証なんてどこにもない。 俺はまた、ピアノを弾けない日々に戻ってしまうのかもしれない。 そう思うと、不安でたまらなくなった。 「どうぞ」  優馬が作ったカクテルを、ゆっくりと味わうように口につける。 あっさりとしていて、心が少しだけ落ち着いた。 「なんかあったの? あんたら」  あんたらと言うのが、杏樹のことを指しているのだということはなんとなく分かった。 杏樹は毎日店に来ていたから。 急に来なくなって、俺があんな状態なのを見たら、誰だって勘づくだろう。 「……別に」  そっけなく答えると、優馬は「そう」とだけ言った。 自分からその話題を打ち切ったはずなのに、なんだか話したくなっていた。 優馬には、そういう不思議な雰囲気を持った男だった。 話す気なんかなかったのに、いつの間にか話している。 そして打ち明けると、不思議と気持ちが楽になっているのだ。
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