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玄関を出て、扉を閉めて。
エレベーターの降下ボタンを押して。
私は振り返って洵の部屋の扉を見た。
扉は物音一つ立てず、無機質な冷たい壁と同化している。
エレベーターの扉が開いた。
私は乗り込まずに、じっとエレベーターの中を見つめていた。
やがて、誰も乗らないエレベーターは、扉を閉めて下がっていく。
ここで待っていれば、洵が追いかけてきてくれるのではないかと思った。
慌てた顔をして、息を弾ませて「杏樹っ! ごめん!」と言って部屋から出てきてくれるのではないかと。
そう思ってずっと待っていたのに、洵はついぞ現れなかった。
受け入れてくれたと思っていたのに。
私達の間には、私達にしか分からない二人だけの世界があって、離れることなんてできないと思っていたのに。
特別だと、信じていたのに。
こんなに呆気なく、突然に、終わりが来るなんて思ってもいなかった。
心変わりを責めることなんてできないけれど、それでも最後に理由くらい教えてほしかった。
結局、好きだと言ったのは私だけだった。
洵の口からは一度も好きという言葉は聞けなかった。
それが答えなんだと言い聞かせても、切なくて会いたくて、私のことを好きじゃなくてもいいから側にいたいと願ってしまう。
初めて見たときから、洵に魅かれていた。
それは説明することのできない、強烈な本能のようなものが洵を求めていた。
才能に惚れた。
そして洵の人間性にも惚れた。
ぶっきら棒で口が悪くて冷たくて。
それでも溢れ出る優しさは、一緒にいるととても居心地が良かった。
繊細なところも、少し神経質なところも、愛しく思っていたのに。
どうして突然終わりが訪れたのか。
どんなに考えても分からなかった。
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