第15楽章 別れの曲

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物心ついた時から、俺はピアノを弾いていた。 周りからは神童と言われ、俺自身まんざらでもなかった。 数あるコンクールを総なめして、家にはトロフィーや賞状が自慢気にリビングに飾られていた。 母は誰よりも熱心に俺の練習に付き合い、俺の才能を信じ込んでいた。 より良い環境を与えるために、有名なピアノの講師を俺につけさせたりもした。 母は自分の時間を全て削り、俺のために、俺にピアノを弾かせるためだけに生きているように見えた。 遊びたいと思っても、母が許してくれない。 突き指するといけないからと言われ、球技をさせてもらえず、俺は何度も母に反抗した。 最初は大人に褒められて得意気になっていたけれど、だんだんピアノを弾くことが嫌になってきた。 コンクール前は、更に母の熱心さに拍車がかかるので、コンクールなんて大嫌いになった。 母はショパンの曲が一番好きだったから、ショパンコンクールには強い憧れがあったらしく、「いつかショパンコンクールに出場して、ママをポーランドに連れて行ってね」と言われても、俺はふんっと横を向いて母の言葉を無視したものだ。  小学校高学年になる頃には、俺はだんだん笑わなくなり、ピアノの練習で遊べないので、当然友達も減っていった。 でも、ピアノはいつも一番上手かったので、妙な自信があって口も悪くなっていった。 それでも女子にはモテた。 それが俺をますます調子に乗らせた。
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