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物心ついた時から、俺はピアノを弾いていた。
周りからは神童と言われ、俺自身まんざらでもなかった。
数あるコンクールを総なめして、家にはトロフィーや賞状が自慢気にリビングに飾られていた。
母は誰よりも熱心に俺の練習に付き合い、俺の才能を信じ込んでいた。
より良い環境を与えるために、有名なピアノの講師を俺につけさせたりもした。
母は自分の時間を全て削り、俺のために、俺にピアノを弾かせるためだけに生きているように見えた。
遊びたいと思っても、母が許してくれない。
突き指するといけないからと言われ、球技をさせてもらえず、俺は何度も母に反抗した。
最初は大人に褒められて得意気になっていたけれど、だんだんピアノを弾くことが嫌になってきた。
コンクール前は、更に母の熱心さに拍車がかかるので、コンクールなんて大嫌いになった。
母はショパンの曲が一番好きだったから、ショパンコンクールには強い憧れがあったらしく、「いつかショパンコンクールに出場して、ママをポーランドに連れて行ってね」と言われても、俺はふんっと横を向いて母の言葉を無視したものだ。
小学校高学年になる頃には、俺はだんだん笑わなくなり、ピアノの練習で遊べないので、当然友達も減っていった。
でも、ピアノはいつも一番上手かったので、妙な自信があって口も悪くなっていった。
それでも女子にはモテた。
それが俺をますます調子に乗らせた。
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