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この頃から両親の仲は最悪なものになっていた。
父と母は顔を合わせても会話さえしない。
父は、母が高額の月謝を払って俺にピアノを続けさせようとするのが気に食わなかったらしい。
二人はいつもそれで口論していた。
父に相手をされなくなった母は、今まで以上に俺一心に愛情を傾け、俺のピアノの才能を信じて疑わなかった。
「私は洵を立派なピアニストに育てるために生まれてきたのかもしれないわ」と嬉しそうに言いだす始末だった。
俺は、自分にピアノの才能さえなければ両親の仲が悪くなることなんてなかったんじゃないかと夜毎ベッドの中で思った。
本気で、どうして俺にピアノの才能を与えたんだと神を恨んだことさえあった。
中学に入学するタイミングで、両親は離婚した。
性格の不一致だと言っていたけれど、俺のせいで離婚したんだと思っていた。
ピアノなんて大嫌いになった。
母は俺を連れて実家に戻り、俺を祖父母に預けて一日中働いていた。
専業主婦をしていたのに、朝から夜遅くまで働くのは随分辛かったと思う。
母はわざと残業が多い職場に就職して、少しでも多くの給料をもらえるように、身を粉にして働いていた。
俺に、ピアノを続けさせるためだ。
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