第15楽章 別れの曲

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「俺、ピアノ辞めるよ」  病室の丸椅子に腰かけながら、項垂れてそう呟くと、母は突然怒り出した。 「何言ってるの!  あなたはショパンコンクールに出場して世界から絶賛されて、有名なピアニストになるの!  洵が演奏会を開けば、コンサートホールは超満員で観客は全員あなたのピアノの音色に恋するの。 それが私の夢。 ねえ、洵、こんなことになってしまったけれど、オーディションには必ず出場してね。 そしてショパン国際ピアノコンクールに出場してポーランドに行くの。 大丈夫、お金のことは心配いらない。 だからお願い、母さんのためにもピアノを弾いて」  そう言われては、頷くことしかできなかった。 母は馬鹿だ。 こんな風になってまで、俺にピアノを続けさせようとするなんて。 そして、こんな状態になるまで気付かなかった俺は、もっと大馬鹿者だ。 母の愛に目を背けて、うざがって、酷い言葉もいっぱい言った。 それなのに、母はいつだって俺のことを考えていた。 俺を愛してくれていた。 自分を犠牲にして、俺を育ててくれた。 「俺、絶対ショパン国際ピアノコンクールに出るよ」  母の萎れた手の平を、両手でぎゅっと包み込むと、母は嬉しそうに笑って、震える指先で弱々しく握り返した。
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