第15楽章 別れの曲

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そして、その三週間後、母は亡くなった。 オーディション予選日の前日だった。  母が亡くなって、憔悴しきっているところに、離婚した父が病院に駆けつけてきた。 父はすでに再婚していて、子供もいる。 入院中は一度も見舞いに来なかったくせに、息を弾ませて青ざめた顔で来たときは、何を今更と白々しい気分になった。 その父が事もあろうか、「葬儀を遅らせるから、お前はオーディションに出ろ」と言われた時は、ぶん殴りたい衝動に駆られた。 「出れるわけないだろ、こんな状態で!」  怒りを露わにして叫んだ。俺のピアノに興味がなかったくせに、よくも……という気持ちだった。 「遺書があったんだ。生命保険金を、洵がポーランドに行く旅費と滞在費用に当ててほしいって」  絶句した。  なんだよ、お金のことは心配いらないってそういうことだったのかよ。 最初から自分が死ぬこと分かってて、だからそんなこと言ったのか?  なあ、そうなんだろ?  死んでまで俺に行かせたかったのか?  約束を、思い出した。 俺は約束を果たさなければいけない。 母のために。
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