第15楽章 別れの曲

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三年間、そうやって生きてるんだか死んでるんだか分からない状態で生活していた。 女遊びも散々した。 女には昔から困らなかったから。 けれど、俺の心の隙間は誰にも埋められなかった。 俺はなんで生きてるんだろうといつも考えた。 なんで俺は死のうとしないんだろうと時々不思議になった。 死ねば楽になるからと自殺者は考えるらしいが、今はとても楽な生活だからあえて死ぬ必要もないだろうと思った。 楽なことが、これほどつまらないとは思わなかった。 楽になるということに、魅力を感じないのだ。  コンクールが近いから寝る暇も惜しんで練習することもない。 誰も俺に期待していないから、プレッシャーを感じることもない。 別に何も考えなくても、何もしなくても、一日は平凡に過ぎていく。  生きていても何も楽しくなかった。 充実感も幸福感も、辛いことも悲しいこともなかった。 楽とは残酷なものだ。 俺は生きながら、死んだのだった。  三年間続いた寮付きの工場の仕事を、上司との折が合わず喧嘩して勢いで辞めてしまった。 貯金もないし住む場所もない。 ホームレスの仲間入りのような生活をしていて、何もすることがないから街をあてどもなく歩いていた。 そんな時、街中からふいにピアノの音色が聴こえてきた。 美しさの欠片も感じない不協和音だった。 なにかメロディーを奏でているようだが、鍵盤を太鼓のように乱暴に叩いているようにしか聴こえない。
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