第15楽章 別れの曲

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母が死んでから、ピアノが不調に陥ると時々情緒不安定になっていたが、とうとうまずい所まできてしまったのかもしれない。  なんで俺が。 昔はこんなんじゃなかったのに。 どんな時も冷静で、本番では練習以上の演奏ができて、精神面は誰よりも強い自信があったのに。 なんで俺が。  悔しさに熱いものが込み上げてきた。 自分に怒りを感じる。 どちらかといえば、自分好きでいつも自信があった。 こんなにも自分という存在が嫌になったのは初めてだ。 目の前に俺がいたら、俺は俺を殴っていると思う。 憎んで嫌って、疎(うと)み無視しているだろう。 「洵、こっちに来なさい」  優馬の声は、有無を言わさぬ迫力があった。 俺は反抗期のガキのように優馬から目を逸らして、黙ってカウンターへと歩いていった。 「ここに座りなさい」 優馬はカウンター席を指さして言った。 「でも演奏が……」 「今日はいいから」 「いいのかよ、そんなこと勝手に決めて」 「私は店長よ。私がいいって言ったらいいの」  優馬は従業員達に「今日はピアノの演奏はなし」ということを伝えて、従業員が客のところに行ってその旨を丁寧に説明して回った。  今日は演奏しなくていいんだと思うと、すっと肩の力が抜けて楽になった。 優馬の前では虚勢を張っていたが、本当は演奏できる状態じゃなかった。
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