185人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
「あ、また……」
私は優馬オリジナルのカクテルを飲みながら、声が漏れてしまった。
「情緒不安定時期に入ったか」
優馬はグラスを拭きながら、遠くを見つめるような眼差しで洵を眺めた。
「情緒不安定時期?」
私が問い返すと、優馬は視線を私に向けて苦笑するように微笑んだ。
「洵はああ見えて繊細だから。ショパンコンクールが近いから焦っているのね」
「ああなるほどね。だから毎晩何かに追われるようにうなされているのね」
「毎晩?」
優馬は聞き捨てならないと言いたげに眉を寄せた。
「あんた達、いつの間にそんな関係になったのよ」
「優馬が想像しているような関係じゃないわ」
「優馬って呼ぶなって言ってるじゃない! しかも呼び捨てだし。あんた何様よ!」
「いいじゃない別に」
「良くないわよ! 洵はなんでこんなふてぶてしい女に私の名前を教えたのかしら。こんな女のどこがいいのか、私にはサッパリ分からないわ!」
「ちょっと、私、客よ? それに洵と私はそういう関係じゃないって言ってるじゃない。一緒のベッドで寝ても手を出されない存在なの。時々、洵も私のこと好きなのかなって思う時もあるけど、どんなに私が色気を出して誘っても拒まれるの。この私が誘ってるのに、拒むのよ? 男が好きっていうならまだ諦めがつくけど、旦那持ちの女は抱いて、私は抱かないなんて考えられない。女としての自信なくすわよ」
「洵はあんたと違って繊細で優しい男なのよ。義理や恩を仇で返すようなまねはしないの」
「抱かれてもいないのに、敵対視されるなんて割に合わないわ。それに洵は私のこと好きじゃないみたいだし」
「好きじゃないなら、一緒にいないでしょう。遠子さんに毎晩一緒にいることがバレたら大変なのに、そのリスクをおかしてまで側にいるってことは、中途半端な気持ちじゃないと思うわよ」
私はう~んと唸って、顎に手の甲を乗せて頬杖をついた。
最初のコメントを投稿しよう!