第14楽章 葬送行進曲

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「あ、また……」  私は優馬オリジナルのカクテルを飲みながら、声が漏れてしまった。 「情緒不安定時期に入ったか」  優馬はグラスを拭きながら、遠くを見つめるような眼差しで洵を眺めた。 「情緒不安定時期?」  私が問い返すと、優馬は視線を私に向けて苦笑するように微笑んだ。 「洵はああ見えて繊細だから。ショパンコンクールが近いから焦っているのね」 「ああなるほどね。だから毎晩何かに追われるようにうなされているのね」 「毎晩?」  優馬は聞き捨てならないと言いたげに眉を寄せた。 「あんた達、いつの間にそんな関係になったのよ」 「優馬が想像しているような関係じゃないわ」 「優馬って呼ぶなって言ってるじゃない! しかも呼び捨てだし。あんた何様よ!」 「いいじゃない別に」 「良くないわよ! 洵はなんでこんなふてぶてしい女に私の名前を教えたのかしら。こんな女のどこがいいのか、私にはサッパリ分からないわ!」 「ちょっと、私、客よ? それに洵と私はそういう関係じゃないって言ってるじゃない。一緒のベッドで寝ても手を出されない存在なの。時々、洵も私のこと好きなのかなって思う時もあるけど、どんなに私が色気を出して誘っても拒まれるの。この私が誘ってるのに、拒むのよ? 男が好きっていうならまだ諦めがつくけど、旦那持ちの女は抱いて、私は抱かないなんて考えられない。女としての自信なくすわよ」 「洵はあんたと違って繊細で優しい男なのよ。義理や恩を仇で返すようなまねはしないの」 「抱かれてもいないのに、敵対視されるなんて割に合わないわ。それに洵は私のこと好きじゃないみたいだし」 「好きじゃないなら、一緒にいないでしょう。遠子さんに毎晩一緒にいることがバレたら大変なのに、そのリスクをおかしてまで側にいるってことは、中途半端な気持ちじゃないと思うわよ」  私はう~んと唸って、顎に手の甲を乗せて頬杖をついた。
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