第15楽章 別れの曲

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「俺ってさ、どうしようもなく不甲斐ない男なんだよね。 自分のことしか考えてなくて、弱くて、好きな女に好きとも言えない根性なしでさ。 守ることも、大切にすることも、側にいることさえできない。 気分次第で近付いて、突然切り捨てたりして。 色んな理由つけて自分を正当化させて、単にさ、臆病なだけなんだよ。 怖いんだよ。 これ以上好きになって、失ったとき傷付くのが。 相手のことを考えてるふりして、結局自分が傷つくのが怖いんだよ」  優馬は少し驚いた顔で、俺を見た。 いつも自信過剰で口の悪い俺が、こんなことを話すなんて意外だったのだろう。 俺だって意外だ。 俺がこんなに弱くて、どうしようもない男だなんて、杏樹に出会うまで気付かなかった。 「洵、一ついいこと教えてあげる」  優馬は不敵な笑みを浮かべて言った。 ……いいこと?  俺が訝しげに目線を上げると、優馬は得意気に言い放った。 「女はね、そういう弱くて駄目なところがある男に、どうしようもなく魅かれるものなのよ」 「なんだよそれ、全然励ましの言葉になってねぇよ」 「励ますつもりなんかないわよ。私は好きな男しか励まさないわよ。甘えないで」 「甘えてねぇよ」 「甘ん坊のくせに」 「はあ!?」  本気になって怒りだした俺を見て、優馬は笑い出した。 その笑い声を聞いていると、なんだか馬鹿らしくなった。 いつの間にか気分が晴れていた。
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