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洵が私のことを好き。
それは私にとっては甘い響きを持つ嬉しい見解だ。
でも、一方で腑に落ちない気分も残る。
好きなら本能に従えばいいじゃないか。
後のことなんて考えず。
理性が歯止めをかけているなら、その程度の気持ちなんじゃないのか。
私は別に恋人になれなくたっていい。
洵のピアノを演奏する機会を失うくらいなら、一生セフレでも構わない。
側にいてくれれば、それでいい。
キスをして、ハグして、朝まで裸で絡み合って、バカみたいに情欲に溺れて、笑い合えればそれでいい。
面倒なことは置き去りにして、その一瞬を輝かせられれば満足だ。
後悔なんて、絶対しない。
どんなことになっても、自分のした行為に後悔なんてしない。
私は洵より一足早く家に帰り、本を片手にデッサンの練習をしていた。
ガタンっと何か大きなものが落ちるような音が玄関でしたので、何事かと思って見に行くと、洵が玄関で倒れていた。
「洵!」
驚いて駆け寄ると、洵は顔を赤くさせて息を荒げていた。
お酒の匂いが身体中からしてくる。
「飲んできたの?」
洵は億劫そうに顔を上げ、私の顔を見ると、だらしなく笑った。
「店のウィスキーをちょっとね」
「絶対ちょっとじゃないでしょう!」
洵は私の言葉なんか聞いていないようで「水、水」と繰り返した。
仕方なくコップに水を汲んで洵に渡すと、洵は水を喉仏に垂らしながら一気飲みした。
「どうしたの? 練習があるからいつもは絶対飲まないのに」
座った瞳で私を睨みつけるように見据え、ぐいとコップを押し付けるように返された。
そして洵は何も言わずにふらふらと立ち上がり、ネクタイを乱暴に緩めて、壁に手をつきながら廊下を歩き、リビングに入っていった。
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