第14楽章 葬送行進曲

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幸せな気分に浸っていたのに、ミスタッチをしてしまって、そのことに洵自身が酷く驚いた様子で演奏がピタリと止んだ。 私は不穏な空気を感じて慌てて洵を励ました。 「酔っているからよ。そんな状態でミスなく弾ける方がおかしいわ」  洵はしばらく何も言わずにピアノを見つめ続けた。 そして突然、バーンっと音を立てて鍵盤を叩いた。 私は驚いて、抱きしめていた手を思わず解いた。  洵は鍵盤に怒りを込めるように、10本指で何度も鍵盤を叩く。 まるで雷が落ちているような音だ。 あまりの煩さに私は耳を塞いだ。 「やめて洵! ピアノが壊れるわ!」  洵は狂ったように鍵盤を叩き続けた。 洵が洵ではない人のように見えた。 繊細な心が悲鳴を上げている。 「大丈夫よ、大丈夫」  私は再び洵を後ろから抱きしめて、子供をあやすように優しく語りかけた。 「洵はとても素晴らしいピアニストだわ。あなたは最高の演奏をする。だから大丈夫、安心して」  洵は鍵盤を叩くのを止めて、項垂れた。 身体が震えていたので、泣いているのかと思って顔を覗き込むと、青ざめながら唇を噛みしめていた。 「私の前では、泣いていいのよ」  項垂れている洵の頭を優しく抱きしめた。 一つのことに没頭し、精神世界で孤独に戦う芸術家が、精神的に不安定になるのは、私はとても理解ができた。 私も絵を描いていると、どこか別の世界にトリップしたような気分になることもあるし、のめり込めばのめり込むほど、心が不安定になることもある。 何かに追い掛けられるような焦燥感を常に抱え込みながら、それでも魂を削って作品に打ち込む。 これはもう、職業病のようなものだ。
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