第14楽章 葬送行進曲

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 洵が精神的に弱いわけじゃない。 感受性を極限にまで引き上げて没頭し続けていれば、不安定にならない方が難しい。  洵は震える長い指先を持ち上げて、私の腰をぎゅっと掴んだ。 私の香りを吸い込むように大きく深呼吸しながら、私の身体を引き寄せるように強く抱き寄せた。 洵は何かに怯えるような瞳で私を見上げ、大きな手の平を私の頬に這わせた。 そして、その手の平を私の後頭部まで持っていくと、ぐいと引き寄せて唇を重ねた。  むさぼるようなキスだった。 舌が絡み合って、唇を吸い上げられるような情熱的で激しいキス。 何度も向きを変えながら、一心不乱に唇を求め合った。 「んっ…あっ……」  思わず声が零れ落ちる。  洵の柔らかい唇も、縦横無尽に動く舌先も、溢れ出る唾液さえ、全てが愛おしかった。 全てが欲しかった。  洵の指先が、私の身体を撫で上げる。 背中を愛撫され、胸を下から揉み上げるように掴まれた。 身体に電流が走ったかのように、爪先から頭の先まで一気に快感が駆け上がる。  その間も、啄むようなキスをしたり、口の奥深くを舌が動き回ったりしていた。 頭が真っ白になって何も考えることができない。 このまま全てを奪われたい。 そう思った時だった。 「駄目だ」  洵が突然冷静な顔になって、私を突き放した。 さっきまで熱いキスを繰り返していたのに、どうして。 冷静な顔がひどく薄情に見えた。 「どうして?」  私は懇願するように身体を押し付ける。 この火照った身体はどうすればいいの。
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