185人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
「どうしてもだ。責任が取れない」
「責任なんて取らなくていい。お願い」
私はキスをせがんだ。
けれど、洵は顔を背けて私を突き放そうとする。
「もう俺に近付くな!」
洵は頭を掻き毟り、唐突に叫んだ。
「嫌よ! 絶対に嫌!」
「杏樹……」
困ったような、怒っているような瞳だった。
「どうして離れなきゃいけないの!? 洵のことが、こんなにも好きなのに!」
私も負けずに叫んだ。
気持ちが溢れてきて瞳に涙が浮かんだ。
「もうこの家には来るな。合鍵も返してもらう」
「嫌よっ! 絶対返さない!」
「それなら鍵穴を変えてもらうまでだ。早くここから出て行け!」
「どうして!? 今まで二人で楽しく生活してたじゃない!」
「いいから早く出て行け!」
洵は部屋に響き渡るような大きな声で言った。
私は突然のことで、わけが分からなくなって、涙を流しながら恨めしそうに洵を見つめ続けたけれど、洵は私の顔を見ようとはしなかった。
「もうしないから。もうキスもしないし、抱いてほしいとも言わない。だからお願い、出て行けなんて言わないで」
泣きながら哀願しても、洵は表情一つ変えずに、玄関の方を指さしたまま私の顔を見ようとはしなかった。
「洵、お願いこっちを見て。好きなの。初めてこんなに人を好きになったの。お願い、私を突き放さないで。どんな形でもいいから洵の側にいさせて」
「出て行け。二度と来るな」
洵は冷淡な声で告げた。
もう駄目だと思った。
どんなことを言っても、洵には届かない。
私は結局、洵にとって必要のない存在だったんだ。
最初のコメントを投稿しよう!