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私は大きな紙袋に画材道具を入れて、出て行く準備をした。
頭の中がからっぽで、ふらふらした。
今、頭を揺らしたら、箱に石ころを入れて揺らした時のようなカランカランという軽い音がするんじゃないかと、この状況にはひどく似つかわしくないことを思った。
現実逃避をしているかのようだった。
私が泣きながら作業をしていても、洵は私の方を見ようとはしなかった。
口を真一文字に結び、不機嫌そうに遠くを見ている。
「今までありがとう」
私はそう告げると、床に合鍵を置いた。
洵は結局最後まで、私の顔を見ようとはしなかった。
洵の前を通り過ぎ、玄関へと向かった。
何一つ、別れの言葉さえ掛けてはくれなかった。
それもそうか。
私達は付き合っていたわけではないのだから。
私が一方的に、洵のことを好きだっただけなのだから。
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