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人前では泣きたくなんてないのに、私は叫びながら涙を流していた。
半分は自分に言い聞かせるようだった。
洵と出会えたこと、あの素晴らしい夜のこと、それをなかったことにできたらなんて、私にはどうやったって思うことができない。
「あなたはなんて自分勝手な女なの。自分さえ良ければいいの?
それで例え、洵からピアノを奪ったとしても。
自分の欲望のためなら構わないの?」
「遠子さんに言われたくない! 遠子さんこそ自分の欲望のために洵を縛り付けていたんじゃない!」
「あなたに何が分かるのよ! 私の何が!」
「遠子さんだって私と洵の何を知ってるのよ! それに洵はピアノを辞めたりしない。どこかできっとピアノを弾いているわ」
それには確信があった。
同時に、そうであって欲しいと願う気持ちから発せられた言葉だった。
すると遠子さんはこれみよがしに大きなため息を吐いて言った。
「これだけは心に刻んでおいて。
あなたは洵のショパンコンクールに出場できる道を奪ったの。
ショパンコンクールは5年に一回しか開催されないし、年齢制限もある。
洵にはラストチャンスだったの。
あなたはそれを奪ったのよ」
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