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そう言って遠子さんは店を出て行った。
後悔なんてしないと啖呵を切ったけれど、最後の遠子さんの言葉は、ズシリと重くのしかかった。
遠子さんの言葉は、何から何まで全てが真実だった。
洵は私を抱いたらピアノが弾けなくなると言っていたのに、私は欲望に任せて激しく抱き合った。
いつもそうだ。
私は将来のことなどまるで考えず、その時楽しいこと、楽なことを選んでしまう。
そうして気付かぬうちに自ら首を絞めていて、後で大変なことになる。
分かっている。
私には洵の夢を奪う価値なんてない女だ。
でも……。
でもやっぱり私にはどうしても、洵と出会えたことを後悔なんてできなかった。
どんなに自分を責めたって、あの夜のことを悪く思えない。
私の人生で一番輝いていた瞬間だった。
キラキラ輝く宝石のような一夜だった。
遠子さんの言葉を理解しつつも、やっぱり最後は泣きながら叫んだあの言葉に気持ちは集約される。
後悔なんてできない。
洵と出会えたことは、私にとって最高の思い出だ。
どんなに批判されても責められても、これだけは変わらない。
でも、私を抱いたことによって、洵の夢が途絶えたこともまた、事実だった。
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