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「会いに行ったら? コンクール主催者に聞いたら、洵の居場所が分かるかもしれない」
「え?」
……会いに行く。
全く分からなかった洵の消息。
会いたいけれど、怖い気もする。
会っても、なんて声を掛けたらいいか分からない。
今の私は、洵のお荷物にしかならない。
こんな大事な時期に、洵の邪魔はしたくない。
「会わないわ。会いに行っても、迷惑だと思うし」
「じゃあ、もしも洵から会いにきたら?」
「そんなことあり得るはずないじゃない」
「もしもよ」
「そうね……」
そのまま私は黙り込んだ。
その後に続く言葉を完全に見失っていた。
もしも洵に会えたら。
会えたら……。
私は一体、どうするんだろう。
私は家に帰るとすぐにネットで洵のことを調べた。
遠子さんから貰った紙の内容は、日本ショパン協会のHPに記載されていた文面をそのまま印刷したものだった。
桐谷洵の名前で調べると、過去に洵が受賞した様々なコンクールが出てきた。
けれど、現在の洵のことが分かる記事は日本ショパン協会のHPに載ったあの文面以外は出てこなかった。
私はそれから数日間、洵の名前が記載されているあの紙を片時も離さず生活していた。
バイト中もこっそりポケットの中に入れて持ち歩いていたし、寝る時も枕の横に置いていた。
その紙は、私をとても嬉しい気分にさせてくれ、懐かしく愛おしいもののようにも感じさせた。
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