第18楽章 ノクターン 第13番

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……最初はただ、どこかに出掛けたのだろうと思っていた。  一言声を掛けてくれればいいのに、なんて軽くムッとしただけだった。 元々洵の家には物が少なかったし、あれがないこれがないなんて私に分かるはずもなかった。  洵のベッドでしばらく一人でゴロゴロした後、久々に自分の家に帰ると、玄関のドアがへこんでいた。 有村が蹴ってへこませたのだろうと思い、また少し怖くなった。  でも、もう覚悟は決めた。 もしもまた有村が私の元に来たら警察を呼ぼう。 私も捕まるかもしれないけれど、有村に捕まり続けるよりはマシだと思った。 ただ一つ、洵に会えなくなるのかだけが気がかりだった。 私は引っ越しの準備をすることにした。 このマンションは有村が名義になっている。 早く新しい家を見つけなければ。 そう思っていた矢先だった。 鍵を掛けていたはずなのに、玄関のドアが開く音がした。 そして入ってきたのは、瞼と頬を腫らした有村だった。 「何しに来たの?」  必死に虚勢を張り、手は携帯を探していた。 「何しにってここは俺の名義の部屋だ。俺がいつ来ようが俺の勝手だろ」  有村はいつもの癪に障る笑い方をしながら、人差し指を鍵についている丸い金具のホルダーに入れ、器用にくるくる回していた。 「その鍵、この部屋の鍵ね。どうしてあなたが持ってるの」 「だからこの部屋は俺の名義なんだよ。合鍵くらいすぐ作れるさ」  話をして気を逸らせながら、手を背中にまわして携帯のボタンを操った。 見えないから上手く押せない。
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