第19楽章 ノクターン第20番

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アマービレに着くと、店内は照明が落とされ、非常灯の明かりだけが足元を照らす唯一の道しるべだった。 「優馬~」  暗闇で周りが見辛いので、そろそろと忍者のように歩を進めながら、小さな声で名前を呼んだ。 暗いところで大きな声で誰かを呼ぶのは、なんとなく勇気が入る。  優馬を探し店内に入っていくと、綺麗なピアノの音色が聴こえてきた。 きっと有線を消し忘れたのだろうと思い、特に気にしなかった。 「優馬、どこにいるの?」  私はカウンターに手をつきながら、恐る恐る進んでいた。 その時、暗闇の中でピアノを照らすライトが、ほんのり付いていることに気が付いた。 その様子はまるで、ピアノだけが闇の中に浮かび上がっているようだった。  ピアノはノクターン第20番を奏でていた。  映画『戦場のピアニスト』で使用されたとても有名な曲だ。 抒情的で切なく、そして悲しいほどに美しい曲。 その美しいピアノの音色に、私はここがどこであるのかを忘れ聴き入ってしまった。 それほど魅力的な素晴らしい音だった。  曲が終わった後も、数秒間は余韻が残り、私は別の世界にいるようだった。 余韻までもが、彼の音楽だった。 その場の雰囲気さえも自在に操り、聴く者を別の世界に連れて行く、神がかった演奏だった。
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