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「久しぶり」
洵の声は以前と何も変わっていないはずなのに、胸にズシンと響くような色気を含んでいた。
声色の「色」が変わったのだ、きっと。
低くてよく透る、とてもいい声だ。
声を聞いただけで、子宮が熱くなるくらい、声まで色気に満ちている。
目の前にいる人物が、洵ではないように思えて、私は狼狽え緊張し、言葉を発することができなかった。
洵は立ち上がり、一歩一歩私に近付いてきた。
視線を下げる目の動きも、歩く仕草も、全てがセクシーで、同い年なはずなのに、ずっと年上に見えた。
私は後ずさり、腰にカウンターの台が当たった。
洵の足が、私の足に触れる。
「近いよ……」
「照れてるの? 珍しい」
洵は妖艶な笑みを浮かべた。
あまりにも魅力的すぎて顔を直視できず、カウンターに両手をつきながら俯いた。
「杏樹、顔を上げて」
「嫌よ」
視線を逸らし続ける私の顎を、洵は長い指先でくいっと持ち上げた。
「俺を見て」
なんて甘い響きなのだろう。
ずっと会いたかった洵が、今目の前にいる。
手を伸ばせば、容易に触れられる場所に、洵がいる。
顔を上げて洵と見詰め合ったら、泣いてしまいそうで、怖くて直視できなかった。
「会いたかった」
絞り出すような切ない音を乗せた声に、つい視線を上げてしまった。
洵と目が合う。
すると次の瞬間には、洵にキスされていた。
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