149人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
唇が覆い被さる。
痺れるような熱いキスは、一晩限りの情熱的な夜を彷彿させた。
洵の身体が迫ってきて、私の上半身はどんどん仰け反り、カウンターの上に仰向けになった。
キスの嵐は止まらない。
お互いの吐息が熱く湿り、下半身がじんじんする。
このままここで、繋がりたい。
欲求が抑えきれなくなる前に、私は洵の唇を手の平で押さえた。
「待って、どうしてここに洵がいるの? 優馬はどこ?」
「優馬は帰ったよ。俺が杏樹を呼んでくれって頼んだんだ。優馬は杏樹を驚かせたかったみたいで、嘘をついたんだ。驚いた?」
「驚いたわよ、とても。今でも信じられないくらい」
洵は満足気に笑った。
洵の醸し出す雰囲気は、大人の色気に加えて、優しさも上乗せされたらしい。
丸く包み込むような優しさは、とても居心地がよく、頼りがいのある男に成長したんだなと思った。
「なあ、杏樹。もしかして怒ってる?」
洵は心配そうに顔を傾けて、私の顔を覗きこむようにして言った。
「どうしてそう思うの?」
「なんだか浮かない顔してる」
「むしろ怒ってないとでも思ってるの? 何も言わずに消えたくせに」
「ごめん。でも俺は……」
「知ってる。ショパンコンクールの推薦オーディションに合格したんでしょ。日本代表だってね、凄いわ。おめでとう」
最初のコメントを投稿しよう!