第19楽章 ノクターン第20番

13/18

149人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
唇が覆い被さる。 痺れるような熱いキスは、一晩限りの情熱的な夜を彷彿させた。 洵の身体が迫ってきて、私の上半身はどんどん仰け反り、カウンターの上に仰向けになった。 キスの嵐は止まらない。 お互いの吐息が熱く湿り、下半身がじんじんする。 このままここで、繋がりたい。 欲求が抑えきれなくなる前に、私は洵の唇を手の平で押さえた。 「待って、どうしてここに洵がいるの? 優馬はどこ?」 「優馬は帰ったよ。俺が杏樹を呼んでくれって頼んだんだ。優馬は杏樹を驚かせたかったみたいで、嘘をついたんだ。驚いた?」 「驚いたわよ、とても。今でも信じられないくらい」  洵は満足気に笑った。 洵の醸し出す雰囲気は、大人の色気に加えて、優しさも上乗せされたらしい。 丸く包み込むような優しさは、とても居心地がよく、頼りがいのある男に成長したんだなと思った。 「なあ、杏樹。もしかして怒ってる?」  洵は心配そうに顔を傾けて、私の顔を覗きこむようにして言った。 「どうしてそう思うの?」 「なんだか浮かない顔してる」 「むしろ怒ってないとでも思ってるの? 何も言わずに消えたくせに」 「ごめん。でも俺は……」 「知ってる。ショパンコンクールの推薦オーディションに合格したんでしょ。日本代表だってね、凄いわ。おめでとう」
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

149人が本棚に入れています
本棚に追加