第19楽章 ノクターン第20番

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どういうわけか、言っていて泣きそうになった。 まるで洵が遠い存在になったかのようだった。 嬉しいのに、寂しい。 心から喜んでいるはずなのに、どうして笑顔がぎこちなくなってしまうのだろう。 「ありがとう。 杏樹に何も言わずに出て行ったのは、成功する自信がなかったからなんだ。 俺は5年前に同じコンクールで大失敗をやらかした。 トラウマを引き起こすかもしれないと思っていたから、絶対に推薦オーディションにだけは出たくないと思っていた。 だから、誰にも何も言わず、一人で戦いたかったんだ」 「そう、だったの……」  洵はいつも、色々なものを背負って演奏してきた。 お母さんの期待。 遠子さんの束縛。 洵は自由になりたかったのかもしれない。 だから一人を選んだ。 それは私にとって喜ばしくない事実だった。 やはり私は、洵の荷物にしかならない。 「あの頃は、色んなことに自信が持てなかった。 自分の精神力の弱さ、ピアノの演奏技術。 俺はいつも誰かに支えられていた。一人じゃ何もできない男だった。 そんな自分を変えたかったんだ」 「そして洵は、見事に変わったわ。一皮も二皮も剥けて、前よりずっといい男になった」 「そうか? まあ、昔よりは自信が持てるようになったかな」 「昔って、まだ数か月しか経ってないわよ」 「なんだか遠い昔のような気がするんだ。杏樹に会えなかった一日一日が、とても長かったから」
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