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私もそうだ。
洵に会えない日々は、とても辛い時間だった。
洵を忘れた日などなかった。
いつだって洵のことを考えていた。
洵のことを思い出していた。
「自信が持てるようになったから、ようやく杏樹に会いに来ることができた。今の俺なら、杏樹を守っていけると思う。どこに行っても生きていける自信ができた。一緒にポーランドに行こう」
洵の言葉は、プロポーズのように聞こえた。
胸が詰まり、涙が溢れてきた。
大好きな洵。
私の一生をかけて付いていきたいと思える。
もうこれ以上、誰かを好きになることなんてできない。
一生分の愛を捧げた男。
「……行けないわ、洵」
涙の雫は鼻の脇を通って、唇の中に消えていった。
「どうして」
洵は私の返答に、心底驚いている様子だった。
私だって驚いてる。
まさか私が、洵の申し出を断るなんて。
いつも楽な方、楽しい方ばかり流れていって、理性なんて無視し続けてきた私が。
洵のためなら、死ねるくらい好きなのに。
大好きなのに。
「私はね、白馬の王子様を求めているわけじゃないの」
洵は不思議そうな顔をして私の話を聞いている。
私は涙を流しながら言葉を続けた。
「辛い状況から救い出して、白馬の後ろに乗せて立派なお城に連れていってくれる王子様をずっと待っていたわけじゃない。
守られるような存在にはなりたくないの。
お互い支え合える、そんな関係になりたい。
だから、一緒についていくことはできない」
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