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「大丈夫よ。洵なら一人でも夢を叶えられる。むしろ洵は一人の方がいいのかもしれない。私の存在が重くなる」
「もう好きな女一人支えられないくらい弱い男じゃない。俺には杏樹が必要なんだ!」
「私がいなくても、大丈夫だったじゃない。洵は夢の切符を手に入れた。だからこれからも一人でやっていけるわ」
「杏樹は、杏樹は俺がいなくても大丈夫なのか?」
「大丈夫よ、現に洵がいない数カ月、平気だったもの」
洵は黙り込んだ。
……本当は平気なんかじゃなかった。
毎日泣いて、苦しくて、寂しくて、自分を責めた。
辛かった、本当に。
会いたかった。
また会えなくなるなんて、身を切られるように辛いけど、でも付いていけないから。
それじゃ、お互いダメになる気がする。
「……俺は、杏樹が側にいてくれない未来なんて想像できない」
洵の声が震えていた。
さっき、しっかり決意して自ら別れを告げたのに、洵のそんな声を聞いてしまったら、心が揺らぐ。
グラグラグラグラ、楽な方へと転がり落ちてしまいたくなる。
「俺が何度も杏樹を突き放して傷付けた報いが来たんだな。待つよ。いつまでも」
「待たないで。そんな約束したくない。洵だって待ってほしくないから、約束しなかったんでしょう?」
「……そうだな」
「いつか、どこかで出会ったら、二人で飲みましょう。私たち、きっといい友達になれると思うの」
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