第18楽章 ノクターン 第13番

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「おい、何してる」  有村は私の手をぐいと引っ張った。 携帯を持っていた手が前に出される。 「警察を呼ぶの」  私は有村を睨みつけた。 「警察? 呼んでどうする。本当のことを説明したらお前も捕まるんだぞ」 「それでもいい」 「呼びたければ呼べよ。呼べるもんならな」  有村は床に私を押し倒した。 馬乗りになって凄い力で私の両手首を抑えている。 「離してっ! これ以上なにかしたら全部バラすわよ! あんたは捕まるし、もう絵を売ることもできなくなる! それでもいいの!?」 「うるせぇ!」  有村は私の頬を平手打ちした。 容赦がない力だった。  どんなに足掻いても有村は力付くで私を押し付け、逃げる隙を与えてくれない。 男と女の力の差はこんなにもあるのかと愕然とした。  犯される。 私の唇は恐怖に慄いていた。  私は白い紙紐を切るために使っていたはさみが床に落ちていることに気が付いた。 有村が無理やり私の服を脱がそうとしている一瞬の隙にはさみを握り、刃先を有村の首筋に当てた。 「……なんのつもりだ」 「私は本気よ。どいて」 「はさみで人が殺せると思ってるのか?」 「殺せなくても突き刺すことはできるわ。そしてその足で私は警察に行く。私は本気よ」  有村は私の瞳をじっと見下ろした。 不気味な静寂が流れる。
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