149人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
次の日、私はブランドバックやアクセサリーを質屋に売りに行って、その足で不動産屋を周り、すぐに住めるマンションを契約した。
有村から貰った手切れ金とバッグを売ったお金でなんとか前金を支払うことができた。
頬はまだ少し腫れていたけれど、化粧をしたら綺麗に隠れた。
だから私は洵の家に行ってみることにした。
時刻は15時。
アマービレに出勤するまでまだ十分時間があるはずだと思った。
洵の家に着き、チャイムを鳴らした。
昨日は家を出る時に、テーブルに無造作に置かれていた鍵を借りてドアを閉め、ポストの中に入れて返してしまった。
これはまた貰ってもいいのだろうか? と一瞬思ったけれど、何も言われてないので返しておいたのだ。
「洵~、いないの?」
チャイムを鳴らしても返事がないので、直接声を掛ける。
どこかに出掛けているのかなと思ったけれど、なにか胸騒ぎがしてドアの取っ手を回した。
ガチャリと音がして、扉が開く。
「洵、いるの?」
私はゆっくりと部屋の中に入っていった。
何かがいつもと違ってる気がする。
動悸が激しく鳴っていた。
裸足で廊下を踏みしめる。
静かな室内。
冷たい床の感触が不安を掻きたてた。
リビングのドアの取っ手を握った。
なぜかスローモーションのように自分の動きがゆったりと感じられた。
ドアを開けると、そこには冷たい床が広がっているだけだった。
この部屋の主のように構えていたピアノも何もない。
私は目の前の光景が意味することが理解できず、しばらくぼーっと佇んだ。
そしてだんだんと鼓動が速くなっていき、不安が押し寄せてきた。
最初のコメントを投稿しよう!