第20楽章 ピアノ協奏曲第1番

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厳か(おごそ)なコンサート会場には、満員の観客が座っており、檀上にはオーケストラが挑戦者を待ち構えるように、堂々とした風体で微笑を浮かべていた。 そこに、緊張など全く感じさせない颯爽とした歩みで登場した洵は、軽くお辞儀をして椅子に腰かけた。 洵と指揮者がアイコンタクトを取ると、オーケストラによる演奏が始まった。 ショパンコンクールは全世界にネットでライブ発信される。 まだDVDやCDが発売されていないので、ユーチューブにアップされた少し画像の荒いこの動画を、私は毎日何度も聴いている。 ピアノ協奏曲第1番 ホ短調作品11 厳格なコンサートホールに良く映える、壮大なメロディーだ。 約4分半オーケストラによる演奏が続き、洵が鍵盤に指を乗せるとピアノの独演が始まる。 この瞬間、私はいつも背中がゾクっとする。 洵の気迫に満ちた演奏は、場の空気を一気に彼独自の世界観へと連れ去っていく。 洵が決勝でオーケストラと共演した、このピアノ協奏曲第1番は、専門家たちからは酷評されている。 ピアノが急ぎすぎたり、周りの音と合っていない部分が目立つからだそうだ。 確かに洵はいつも一人で弾いていたから、慣れていないし、荒が目立ってしまったのだろう。 けれど、洵はとても楽しそうに弾いていた。 画面からも、洵が嬉々として弾いている様子が伝わってくる。
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