第20楽章 ピアノ協奏曲第1番

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洵はわが道を貫くように、自分が表現したい世界観を全面にアピールして弾いていた。 オーケストラや指揮者は、最初戸惑った様子を顔に滲ませていたが、そのうちこの若いピアニストの好きなようにやらせてやろうという意思が皆に伝わっていき、熟練した演奏家たちは、洵のピアノに必死でしがみ付くように合わせ、いつしか会場全体が一つになっていた。 演奏が終わった時、一番拍手が多かったのは洵の演奏だった。 何度聴いても感動して涙が出るくらい素晴らしい演奏だ。 しかし、やはり専門家たちはしっかりと見抜いていた。 これが熟練したプロのオーケストラでなければ曲は破綻していたと口を揃えて言った。 そして洵は、一番観客から支持を得ていたにも関わらず4位という結果に終わった。 それでも、あの世界的なコンクールで入賞を果たすということは、素人の私の想像を超えるくらい凄いことに変わりはない。 動画をリピート再生に設定して、私は絵を描き始めた。 長い間絵を描くことから遠ざかっていた。 仕事に身体が慣れなくて、家に帰ってきてからは寝るだけの毎日だった。 けれど、洵の演奏を聴いて、再び描きたいという意欲が生まれた。
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