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洵がまだ、アマービレにいた時にスケッチブックに描いた膨大なデッサンが、今とても役に立っている。
スケッチブックには、洵の男らしく長い指先が沢山描いてあった。
それらを下敷きにしながら、色を重ねていく。
私は最近、絵を描きながらいつも同じことを考えている。
成功者になれるのは、一握りの選ばれし人間だ。
成功者と同じくらい努力をすれば、同じように成功できるのか。
きっと、そんな甘いものではない。
何千何万と夢を叶えられなかった人間がいるからこそ、成功者は輝くのだ。
今、洵が輝いているように。
私は洵のようにはなれないかもしれない。
大きなコンテストで受賞して、仕事を沢山もらえるようになって、絵だけで生活ができるようにはならないかもしれない。
けれど、それでも日々の暮らしに満足して生き生きと歩んでいければ、それでいいじゃないか。
私は絵を描くのが好きだから描く。
たったそれだけのシンプルな想いを大切にすれば、こんなにも楽しく暮らせる。
ハッピーエンドには色々な形がある。
洵と結ばれなくたって、それがアンハッピーエンドになるとは、私は思わない。
私は私のハッピーエンドを見つける。
遠くから、洵を見つめ続ける。
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